ゲーマーズ！8星ノ守心春と逆転バックアタック (富士見ファンタジア文庫)

ゲーマーズ既刊八巻、四日くらいで一気読みしてしまった訳ですが、アニメ化を期に読み始めた人には結構多そうなパターンです。それくらいに読みやすく、引きがうまいということだと思うのですが。これはライトノベルの中でもなかなか稀有なパターンなんじゃないかと思います。作者の文章が好きなので、『生徒会の一存』シリーズの方も読んでみたくなるくらいです。そして、八巻もそうですが、このシリーズ、サブタイトルがいいですね。最後まで読むと「なるほどな、そういうことか」と思えるサブタイです。この作品、自分がこれまで読んできたラブコメの中でもかなり上位に食い込むと思います。勘違いが重なるような、若干強引な展開が初期には見られたりしたんですけれど、やっぱり基本的に主人公の雨野を始めとして、キャラクターに好感が持てるし、それぞれのキャラの関係性に無理がないし、かけ合いを読んでいて楽しいというか。特に雨野は好意や楽しさを表現するのに躊躇がない小動物みたいな感じで、結構ヒロインズから向けられる矢印に違和感がないんですよね。それに英雄・無双系の主人公ではないので感情移入しやすいですし。一種の偏見なのかもしれませんが、ライトノベルやマンガのラブコメって、『二人が付き合うとなったらそこで物語は終了』みたいなところが大きいような気がするんです。でも、ゲーマーズは違って、やはり主人公達のグループ交際的な側面、たとえ恋人関係が一旦リセットされても変わらずに続く人間関係というのが前提としてあると思うんです。それは主人公雨野やヒロイン千秋から見れば、これまでの人生になかったもので。前巻から続く恋人関係の解消は、見慣れない展開であることも手伝って、若干違和感があったんですけれど、結局、『よりよい関係ってなんだろう』という答えの見えない答えを模索するための道筋だったんじゃないかな、と思います。天道と上原はどうしても自分の衝動だけで動けず、人間関係の立ち回り的な打算で動いてしまうという自己嫌悪がある。その点は、主人公の弟の光正の好き嫌いによって強調されていたりする。天道は千秋に負い目があるし、上原は雨野に負い目がある。思えば恋愛モノって、ひとたび恋人関係が成立してしまえば、あとはキスとかそれ以上とか、肉体的な関係が先に進むことにテーマとして移行しがちですけれど、しかし、プラトニックな側面を重視した場合、『本当に恋人にとって相応しい相手は自分なのか』『本当に恋人に相応しい自分でいられているか』というのは実は根が深い問題なのだと思います。本来、恋愛って水物で、別に釣り合いが取れていなくても、タイミング次第ではカップルって成立するものだとは思いますが（タイミングが重要、という側面では例えば化物語の阿良々木と戦場ヶ原、羽川を思い出したりします）、このゲーマーズでは恋人にとって、よりよい相手は誰なのか、というのが模索される。それはやっぱり上述の通り、恋人関係がなくなっても成立するグループ交際の前提があるからで、カップルがたとえ解消されても、変わらずにクリスマス会に集まるくらいには皆仲がいい。レビューで千秋が天道に追いついた、横並びになった、というものを読んだりしましたが、それは正確なんだろうか?と思います。相変わらずカラー口絵では天道にメインヒロインという表現が使われていたりしますし。あと、この巻では天道に動きがないという点に対する言及については、流石に展開からしてしょうがないんじゃないか?と感じてしまいますね。上原の場合は、雨野の方があぐりに相応しいんじゃないか?という疑問以上に、恋人なのにも関わらず関係を停滞させてしまっている自分への不甲斐なさみたいなのが見て取れるんですよね。雨野を完全にライバル視している訳ではないとは思うんです。でも、ライバルでもない雨野が、自分の彼女についてのことで、自分以上に憤ったことについて、やっぱり情けなさを感じずにはいられなかったのだろうと。しかし、天道の場合は、ちょっと上原とは違います。しかも、今巻で行動していないとも思いません。今巻の天道の行動は、千秋のお見舞いに行ったことに現れていると思います。要するに勘違いから始まった自身の恋人関係というリードを一旦解消する――千秋が追いついてくるのを待つ、みたいな選択である訳です。そしてその思惑は今巻のラストである程度達成されたような気もします。一方、雨野は天道のことを『初恋』と表現していた訳で、やっぱり恋愛的には天道はメインヒロインというところはブレていないと感じています。だからといって、千秋がまるで蔑ろにされるというのも違うでしょう。ラブコメの物語として、雨野と千秋の関係が徐々に徐々に進展していくという展開で引きを何回も作ってきているシリーズなのですが、しかし、ここに来てどういう落とし所を作ってくるのか気になります。最終的にどんなところに落ち着くのでしょうか。ここまで来たら最後まで読まないという選択肢はありえませんね。天道はやっぱり魅力的で、雨野とのイチャコラぶりは大変楽しかったよな、というのはあるのですが、千秋と雨野の関係が進展していく様も実に王道で、心が動かされるのを感じます。やっぱりラブコメでダブルヒロインが両方魅力的って重要だよなーと思います。かたやポンコツ超絶美少女、かたやドッペルゲンガー風夫婦漫才の相手……単純に恋愛として見ると、相手としてギャップのある天道の方がラブコメ的には美味しい気もするんですが、やっぱり千秋の積み重ねっぷりも目が離せないんですよね。ラブコメ読者としては優柔不断な読み方ではあるのですが、やっぱり登場人物が皆魅力的で、主人公周りだけじゃなく、誰も彼もを応援したくなるのが（作中の和気藹々とした関係性こそが）、このゲーマーズのいいところなのではないか、と思っています。